ぺんしるブログ

行き先不安な現代社会。僕たちは社会科で何を学んできたのか。

第5号 なんか俺たちってさ…

学生のときに、「なぜアフリカの国々には直線的な国境が多いのか」という

授業を受けた。結論から言ってしまえば19世紀から20世紀にかけて、

欧州列強と呼ばれるヨーロッパの強国が、地図上の緯線・経線を利用して、

勝手に分割したからである。当然、当該地域の実情など全く無視した

一方的な画定であったため、地形的、民族的、社会的に混乱を生み出した。

その混乱の影響を今日に至るまで抱えている国もあるという。

このように地理と歴史は本来切り離せないほどの関係があるのだ。

そして学校教育でその分野の学習を謳っているのならば、

両分野の関連は当然望まれるべきである。

学習指導要領にはどう書いてあるのだろう。

平成29年度版の指導要領社会科編の「歴史」の部分を見てみる。

 

歴史的分野 内容の取扱い

「歴史に関わる事象の指導に当たっては、地理的分野との連携を踏まえ、

地理的条件にも着目して取り扱うよう工夫するとともに、

公民的分野との関連にも配慮すること」

とあり、歴史を学習する際には地理的要素を取り入れて、

多面的・多角的に考察する能力を育てることが期待されている。

態度としては「地理さん、もっと仲良くしましょう!」と言っているのである。

 

では反対に地理さんは何と答えているか。

指導要領の「地理」の部分を見てみよう。

 

地理的分野 内容の取扱い

「3)教科の基本的な構造や三分野の学習内容の関連性に留意して、

第1学年及び第2学年では歴史的分野との連携を踏まえるとともに、

第3学年において学習する歴史的分野及び公民的分野との関連に配慮した

内容構成としていること。」

 

なるほど、つまり地理の方も歴史や公民と関連していきたいよ

と言っている。しかし、同時に留意事項として以下のような記述もある。

 

「歴史的背景は、現在の地域の特色を捉える上で必要な範囲において

取り上げるようにする」

 

地理が扱うのはあくまで現代社会の様子なのだから、歴史的側面には

必要以上に踏み込みすぎるなよ、と制限をかけているのだ。

冒頭で出したアフリカの国境の話は現在の有り様を説明するための

歴史的背景として登場しているのだが、実際に地理教科書を見ても、

歴史的背景が書かれた記述は、非常に文章の量が少ない。

 

対して、歴史教科書は地理的要素を取り入れようとする態度が強い。

この歴史と地理の態度の違いは、「地理を取り込む歴史」

「歴史を切り離す地理」という言葉で表現されることがある。

歴史は地理を追いかけるが、地理は歴史から逃げていく、

なんとも切ない構図である。

 

近年の歴史教育では、盛んに地域に関する学習を行うことを主張している。

歴史教科書を見ると、地域史が学習対象に置かれ、

その中で地域への愛着とともに、その地理的条件に着目することを

ねらっていると思われる。ちなみに公民の教科書でも

地域づくり・町おこしの項目が取り上げられており、

今後はますます地域学習が社会科のトレンドになっていくのではないかと思われる。

 

ともかくも、ここまで現在の地理学習と歴史学習の性格の違いを書いてきたが、

改めて述べると、地理学習は「その土地の現在の様子」を学習するものであり、

歴史学習は「その土地の過去の様子」を学習する分野である

とまとめることができる。

変形π型のイメージ。地理分野ではその土地の現在の様子を学習し、歴史分野では過去の様子を学習するという位置づけがなされていることが分かる。

筆者もこの立場に基本的には賛同するが、

様々な国際問題(紛争など)や国内での都心や地方での課題が

広く報道されるようになった今日、異文化・他地域の歴史的理解の充実を、

今後の地理教育には求めたい。

地理教科書を眺めると、やはり人口や産業、交通といった政治的・経済的尺度で

地域を見る傾向が強いように思える。

国際化や地域的課題に対応するために、歴史的背景やそれに伴う文化、

人々の暮らしの様子にも光を当てるべきだろう。

 

では、そんな地理・歴史の上に立つ公民分野とはどのような領域なんだろうか。

次稿以降では改めてその捉え直しを行っていこうと思う。

 

参考

中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 社会編

『新版 社会科教育事典』日本社会科教育学会編 ぎょうせい 2014年