ぺんしるブログ

行き先不安な現代社会。僕たちは社会科で何を学んできたのか。

第7号 学問に隔たりはない…ってコト?

前稿では公民科は地歴科と比較して、政治・経済・社会など、

扱う範囲が多岐に渡るという面で、大きく異なっている。

また、公民科は1969(昭和44)年以前は、公式には「政治・経済・社会的分野」と

呼ばれており、分野としての統合を図るために、

名称の他に目標や内容を再検討した、という話をした。

ちなみに、このときに目標として掲げられた自由と責任、権利と義務についての

正しい認識を行うこと、という文言は、現行の指導要領にも引き継がれている。

 

ではその公民はどのような学習項目が設けられているのだろうか。

下の図は学習指導要領(平成29年)からの抜粋である。

「中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 社会編」より抜粋。A~Dで公民の大単元が示されている。

これを見て読み取れることを幾つか示す。

①第3学年から始まる公民の学習には、地理で獲得した空間的認識と

歴史で獲得した時間的認識、そして社会的事象を因果関係によって

結び付けて説明する資質が前提となっていること。

 

②公民といってもいきなり政治や経済の単元から始まるのではなく、

項目Aにもあるように、社会単元から学習していくこと。

また項目Aにおいて、その後の項目B、C、Dである経済単元、政治単元、国際単元

を学習するうえでの基盤となる概念を習得する構造であること。

 

③項目Dの国際単元の終結部だけは独立しており、国際社会における諸問題を

考察する内容が設けられていること。

 

①については、これまで何度か見てきたように、最終学年として公民は、

π型社会科における集大成として位置づけられているということ、

また中学校だけでなく、小学校段階での学習も含めた社会認識を基盤

としていることが分かる。

 

②について、これは実際の教科書の構成を見た方が分かりやすい。

上図の学習指導要領における項目A「私たちと現代社会」の単元は、

東京書籍の公民教科書では次のような配列になっている。

 

第1章 現代社会と私たち

第1節 現代社会の特色と私たち

 導入 T市のまちの様子から現代社会をながめてみよう

  1 持続可能な社会に向けて

  2 グローバル化 結びつきを深める世界

  3 少子高齢化 変わる人口構成と家族

  4 情報化 情報が返る社会の仕組み

第2節 私たちの生活と文化

  1 私たちの生活と文化の役割

  2 伝統文化と新たな文化の創造

  3 多文化共生を目指して

第3節 現代社会の見方や考え方

  1 社会集団の中で生きる私たち

  2 決まりを作る目的と方法

  3 効率と公正

  4 決まりの評価と見直し

まとめ T市の自転車の使用ルールを考えよう

 

そしてこの第1章の後には、

第2章 個人の尊重と日本国憲法(項目C 私たちと政治 に相当)

第3章 現代の民主政治と社会(項目C 私たちと政治 に相当)

第4章 私たちの暮らしと経済(項目B 私たちと経済 に相当)

第5章 地球社会と私たち(項目D 私たちと国際社会の諸問題 に相当)

と大単元が連なっていく。

 

第1章の内容で注目すべきなのが、

現代社会の特色として、グローバル化少子高齢化、情報化の3点が

 挙げられていること。

文化は、国内のものと国際的なものの2つの側面が挙げられており、

 上記の3つの特色とは独立した扱いを受けていること。

現代社会の見方・考え方として、ルールの決め方、

 そしてそれに伴う効率と公正の概念の獲得が設定されていることが分かる。

 

❶について、この3つの視点は学習指導要領にも記載があり、

社会や産業の様子の変化(例:核家族化の進行や情報産業の急速な発達など)

理解することが目標となっている。

この3つの視点は、後に詳しく学ぶ政治・経済・国際単元を考えるうえでの

レディネス(予備知識)になっているのである。

ちなみに、これより前の地理の学習でもグローバル化少子高齢化、情報化を

学ぶ項目は存在しているので、この3つの視点は公民で再び登場することになる。

 

❷の文化は上の3つの視点には含まれず、少し離れた扱いをされているが、

これはグローバル化少子高齢化、情報化はどちらかというと社会的な現象として

終始している一方で、文化とは私たちの見方や価値観に大きな影響を与えている

という面で本質的に異なることを意味しているからだと思われる。

 

❸の効率と公正についてだが、読者諸君はこの2つの違いを説明できるだろうか。

ちなみに東京書籍の教科書では、効率とは「社会全体で無駄を省くこと」、

公正とは「一人一人を尊重し、不当に扱わないこと」と説明されている。

さらに踏み込んで公正には、物事の決定には全員が対等な立場で参加すべきである

という「手続きの公正」、また理由なく機会を奪われたり、

不当な損失を受けることがないようにとする「機会や結果の公正」に分かれる。

またこれ併せて多数決の原理と少数意見の尊重、

さらには対立と合意の概念も説明されており、

この後に続く政治単元、経済単元、国際単元の素地になっていることが

想像できるだろう。

公民は政治・経済・社会・国際といった広範囲に渡る学習であるため、分野としての統合性をどのように担保するかが、実際の授業レベルでも課題となる。

前稿で「公民」という名称になる前の「政治・経済・社会的分野」では、

科目としてのまとまりが不十分であった、ということが指摘されたが、

現在はこのような単元構成をもって、科目としての統合性を出しているのである。

 

参考

中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 社会編