地理はどのような学習をしていた科目か、みなさんは覚えているだろうか。
歴史や公民は割と学ぶかイメージしやすい科目なのだが、
意外と地理とは何を学ぶ科目だったのか、一言でまとめることは難しい。
ではなぜ難しいかというと、我々は表面上のテーマとしては、
「北アメリカ州」とか「九州地方」とか各地域ごとの様子を学習するが、
それと同時に人口や産業、交通といった裏のテーマを学習しているからである。
実は各地域には、それぞれこの裏テーマが設けられていて、
例えば九州地方は「自然環境」、中国・四国地方は「交通・通信」
といったテーマで地域を観ることが一般的である。
(一般的、というのは日本地理に関しては学習指導要領には明確な
テーマの規定がないため)
このようなテーマを、地域を学習する際のスコープ(観点)として、
日本地理・世界地理を学んできたのである。
こうした学習方法によって地誌に関する内容を幅広く網羅できる反面、
ややもすると各テーマ同士の関連が希薄になってしまう。
「地理って何の勉強をしたんだっけ?」と記憶が曖昧になっているならば、
ここにも原因の一つがあるのではないか。
それでは現在の地理学習では、具体的にどのような区分で、どんなスコープ(観点)が
設定されているのだろうか。例として東京書籍の地理教科書の目次を参考に
してみよう。
【世界地理】
第1節 アジア州ー急速な都市の成長と変化ー
⇒人口の増加、居住環境の変化と課題
⇒国家統合、文化の多様性と課題
第3節 アフリカ州ー国際的な支援からの自立に向けてー
⇒耕作地の砂漠化、経済支援と課題
第4節 北アメリカ州ー多くの人々をひきつける地域ー
⇒農業地域の分布、産業構造の変化と課題
第5節 南アメリカ州ー開発の進展と環境問題ー
⇒森林伐採と開発、商品作物の栽培と課題
第6節 オセアニア州ー強まるアジアとの結びつきー
⇒多文化社会、貿易と課題
【日本地理】
第1節 九州地方(沖縄地方を含む)ー自然とともに生きる人々の暮らしー
⇒自然災害と防災への取り組み
第2節 中国・四国地方ー交通・通信とともに変化する人々の暮らしー
⇒陸上、海上輸送などの物流や人の往来、人口分布や過疎
第3節 近畿地方ー都市・農村の変化と人々の暮らしー
⇒交通網に基づく街づくり、人口分布や過疎・過密
第4節 中部地方ー活発な産業を支える人々の暮らしー
⇒各地域ごと(東海・中央高地・北陸)の産業の動向
第5節 関東地方ーさまざまな地域と結び付く人々の暮らしー
⇒国内各地や世界との結び付き、人口の分布や過密
第6節 東北地方ー伝統的な生活・文化を受けつぐ人々の暮らしー
⇒伝統産業・行事、災害の記憶の継承
第7節 北海道地方ー雄大な自然とともに生きる人々の暮らしー
⇒自然環境を生かした産業、資源・エネルギー
以上のように、世界地理・日本地理とも各地域ごとにテーマが設定されており、
各地域を学ぶ中で、それぞれの観点について学習していく構造になっている。
また、東京書籍の場合はこのような主題設定となっているが、
地理学としてのスコープを獲得することを目的とするならば、
別に九州地方で人口について取り上げても良いし、
東北地方で交通・通信について学習を深めても本質的には問題はない。
現代社会をどのような観点で切り取るかによって、学習の構造自体が
変わってくるのである。もしかしたら地理は歴史よりも公民よりも、
あるいは他の教科にも勝るほどの自由度をもった科目なのかもしれない。